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活動報告

被災地を支援する

NPOパートナー協働事業

2012/01/06

「ものは流れても心までは流されません」――協働パートナー紹介

1月5日の活動報告で紹介した宮城県気仙沼市の小泉地区は、12月9日、安全な土地への移転に国が補助金を出す「防災集団移転促進事業」にいち早く申込書を提出し、集団移転のモデルとして注目されています。将来を見据えた復興のためには、住民の主体的な参加が不可欠と言われるなか、同地区の人々が続けてきた「まちづくりワークショップ」は、地域再生のための知恵が詰まっています。

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resizeDSC02964.jpg「みんなで入れる銭湯があるといいな」「お酒を飲んだり歌える宴会場もほしいねぇ」――真っ白な雪が東北地方を覆う2011年12月末、小泉地区仮設住宅団地の一角に、40人ほどの住民が集まり、何やら楽しそうに話し合っています。

同地区の人々は、2011年7月から月に1~2回、Civic Forceのパートナーである日本建築学会小泉地区明日を考える会のサポートのもと、「小泉地区のよいところ」「小泉地区がずっと元気でいるには」などさまざまなテーマでまちづくりに関するワークショップを続けてきました。この日行われた9回目のワークショップのテーマは、「地域の絆」。地域のつながりを見直し、コミュニティーの将来について具体的な理想像をイメージするのが目的です。

今回は、話し合いに入る前に北海道大学の森傑教授による講義から始まりました。森教授は、日本のニュータウン建設へも大きな影響を与えた1920年代にアメリカで発案された「近隣住区論」や、田園都市の理念に基づいてロンドン郊外に建設された「レッチワース」など、世界のまちづくりの事例を紹介。地域の人々にとっては、初めて聞く専門的な内容も含まれていましたが、森教授の分かりやすく丁寧な解説を通じて、より広い視野で地域を見つめ、空間として町の全体像をとらえるヒントを提供しました。

次に「コミュニティーを存続させていくために何が必要か」をテーマに、ディスカッションを行います。1グループ8~10人ほどで3つのグループをつくり、「日常的なお付き合いの“これまで”と“これから”」「日常的な相談ごとの“これまで”と“これから”」「困ったときの支え合いの“これまで”と“これから”」について話し合いました。

参加者の大半は50歳以上の男女で、生まれたときから小泉地区で暮らしてきたという人も少なくありません。そんな住民が振り返る小泉地区の“これまで”は、「野菜をあげたりもらったりするのは当たり前」「近所の人の顔が見えないと心配」「歩いてる人をみかけたら車に乗せてあげる」「昔の話を子供に伝え続けている」など、多種多様。話し出したら止まらない小泉地区の人々の会話は、森教授が止めるまで延々と続き、ときには大きな笑い声も混じります。

そして、こうした話し合いの中から浮かびあがってくるのは、震災前から築いてきた住民同士の密接なつながりです。震災が起きるずっと前から存在する、小泉地区の確固たる「地域の絆」が見えてきました。

resizeKougiDSC02967.jpg議論が盛り上がったところで、森教授とともにコーディネーターを務める建築士の和田敦さんが「地域の集会所を作るならどんなものがいいですか」と、問いかけます。ここでは話し合いの前に、北海道釧路町の遠矢公営住宅の事例が紹介されました。釧路町は、公営住宅において道内初の「コレクティブハウジング」の考え方を取り入れ、住宅と福祉サービスが連携した住環境づくりに力を入れています。これは、独立した各専用住居と、みんなで使ういくつかの共用スペースとを合わせ持つ住まいのことで、自分や家族の生活は自立しつつも、血縁にこだわらない広く豊かな人間関係の中で暮らす住まいの形として知られています。

その事例を参考にしながら、次は小泉地区の人々が地域交流の拠点となる施設の具体的なイメージについて考えます。「多目的室や集会室などどこからでも人が集まってこられる場所がほしい」「親子で参加できる料理教室があるといい」などのほか、「親戚より近くの他人。住む人みんなの気心が知れたコミュニティーがいい」という声も印象的でした。

集会に毎回参加しているという50代の女性は、「これからも住むまちのこと、上の人にまかせないで自分でちゃんと考えたい」と、参加の理由を話してくれました。また、40代の男性は「山や海の学校として、他地域の子供たちも学びに来るような活気ある小泉にしたい」と意気込んでいます。

今後は、新しい土地でのまちづくりに加え、かつて住んでいた被災跡地の利用についても話し合う予定です。森教授は「考えるべきことはまだまだたくさんあり、面白いことがたくさん待っています。ワークショップを通じて、今後も一緒にまちを作っていきましょう」と、笑顔で呼びかけました。

resizeDSC02973.jpg

小泉地区の人々は言います。「10年、20年の年月が過ぎてもあのときの辛い記憶は消えません。でもそれ以上に、建設的かつ発展的な営みを進めて“今”がある、という喜びを分かち合えればいい。ものは流れても心までは流されません」。

Civic Forceは、こうした地域復興のカギとなる人々を支えるとともに、このパワーを他の地域にも広げていけるよう、人と人との“つなぎ役”としての貢献を目指しています。