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活動報告

被災地を支援する

2012/12/14

「森・里・海の循環」キーワードに"流域"の魅力届けたい――NPOパートナー協働事業

前回につづき、被災地の持続可能な復興・発展モデルの確立を目指して、宮城県気仙沼市唐桑(からくわ)町で活動する「ピースネイチャーラボ(PNL)」について紹介します。

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「地元で採れたクルミを入れるのはいいけど、クッキーはすでに市場にたくさん出回っている」「逆にビスコッティはちょっとニッチすぎるかも」――11月中旬、東京・渋谷にあるカフェカンパニー本社にある“テストキッチン”で、焼き菓子を見つめながら真剣に議論する人たちがいます。

この日、ピースネイチャーラボ(PNL)の商品開発を担当する宮崎由衣さんと、PNLをサポートするカフェカンパニーの販促企画担当、デザイン担当の方々が、PNLの新しい商品について話し合っていました。震災で甚大な被害を受けた三陸地方において震災以前から課題となっていた基幹産業の衰退や高齢過疎化の問題を克服しながら復興していくため、2012年3月に宮城県気仙沼市唐桑町で設立されたPNL。カフェカンパニー、三重県のもくもくファームをはじめとする多くの企業の協力を得ながら、現在、「海・里・森」の循環をキーワードに、牡蠣やホタテといった地域の資源を生かした産業づくりに挑戦しています。

鈴木職員-牡蠣下処理②- (1).JPG

「トライ&エラーの繰り返しですね」。事業の核となる“地域の資源を生かした商品の開発”に当たり、ピースネイチャーラボの商品開発担当、鈴木広光さん(写真)と宮崎さんは、これまで何度も試行錯誤を繰り返してきました。カフェカンパニーとのやりとりはそうした商品開発現場の氷山の一角。これまでに開発した“実験”的商品は、唐桑の代表的な食材である牡蠣・ホタテのくん製や、地元農家のお米と牡蠣でつくったおこわ、牡蠣のオリーブオイル漬け、ホタテのヒモソーセージなどの“海シリーズ”があります。また、“森シリーズ”として、地域の産品の一つであるクルミやフルーツを利用した焼き菓子などを開発中で、それぞれの商品にはたくさんの協力者とともに練り上げた、こだわりや思いが詰まっています。

例えば、団体設立当初から試作していた牡蠣・ホタテのくん製は、地元の間伐材を用いたチップを活用。ソーセージにするホタテのヒモは貝柱を出荷する際に活用されずにそれまで自家消費や廃棄されていたものを使っていて、おこわに使用する米は気仙沼大川流域のアイガモ農法※で栽培されたものを用いています。また、冒頭に登場した焼き菓子は、川の上流でとれる岩手県のクルミを使い、森と海のつながりを体現する商品として目下試作中です。

牡蠣・ホタテのくん製やオリーブオイル漬けの開発に当たっては、辻調理師専門学校の講師や仙台市内のフレンチ料理レストラン「Au Cochou Bleu(オ・コションブルー)」のオーナーシェフ、高島屋のベテランバイヤーなど、プロの目線から、食感の出し方や下味付の方法などについて助言を受け、ときには「こんなの売れるわけない」と厳しい指摘を受けることもあります。また、9月に日本橋タカシマヤで実施された「大東北展」でブース出展して150人以上にアンケートをとったほか、唐桑で活動するNPO森は海の恋人と協力して同団体主催の自然体験ツアーの参加者に試食してもらうなど、プロの視点だけでなく、一般消費者からの意見も商品開発に反映させています。

10月20日モニター試食2.jpg

商品開発と並行して、これまでに三重県にある体験牧場「伊賀の里モクモク手づくりファーム」などの視察を通じて、工房や周囲の空間づくりに関する知見を高めたほか、工房の設置に向けて、建築家やデザイナー、保健所などと協議しながら、生産体制の確立を目指して活動しています。

PNL副代表理事の畠山信さんは、「震災によりなにもかもが流されてしまった場所での再スタートの難しさに直面しています」と語る一方、PNLの活動を通じて、域内外の支援者とのコラボレーションが復興のカギになると感じています。「ここ唐桑を訪れる多くの訪問者は、この場所がまるで絵本の世界のようだと言います。気仙沼市内からここに至るまでの道中は鹿やリス、タヌキなどたくさんの動物たちに遭遇し、山を越えた先にはリアス独特の美しい海と山のコントラストが広がり、その地に息づく人々の営みと古き良き漁師町の景色が周囲の自然と絶妙に融合しています。ひっそりと、でも真摯に仕事に向き合う生産者をはじめ人々の生活・景観・素材のすべてをパッケージにした地域ブランドを確立させ、応援してくれている皆さんの期待に応えたいと思います」。

Civic Forceは、震災直後から開始した「NPOパートナー協働事業」や今夏立ち上げた「中長期復興支援事業を通じて、PNLのように地域の将来を見据え、まちを元気にしていく活動をサポートしています。

 

※アイガモ農法:アイガモを水田に放すことで、農薬や除草剤を使わずに雑草や害虫を駆除する有機農法の一つ。アイガモの排泄する糞尿が有機肥料となるほか、アイガモが泳いで水や泥をかき回すことで水田内へ酸素を補給するなど、様々な効果が確認されている。