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活動報告

被災地を支援する

NPOパートナー協働事業

2012/01/25

"心の変化"を敏感に感じ取るために――協働パートナー紹介

近年、大規模災害や事件、事故が発生する度に、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や心のケアの必要性について、盛んに報じられるようになりました。東日本大震災でも発災直後から様々な機関や団体が“心のケアチーム”として被災地に入り、活動しています。Civic Forceのパートナーである日本トラウマティック・ストレス学会も、その一つで、行政関係者らに対する研修などを通じて、被災者の心のケアを行っています。

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日本トラウマティックストレス学会は、心的トラウマケアの専門家である4人の精神科医や心理学者が中心となって、2002年に設立されました。

「学会」の名が示すように、活動内容は心的トラウマに関する学術研究や発表が中心ですが、このほかに“臨床”、つまり実際に現場に出て活動する点が他の学会とは異なります。会員は研究者や医師、臨床心理士だけでなく、看護師やソーシャルワーカー、保健関係者や教育関係者など、トラウマティックストレス(心的外傷を追うような精神的衝撃を引き起こすできごと)に関する研究や実践の現場に携わる1,000人以上が登録しています。

東日本大震災支援にあたっては、発災翌日に「東日本大震災特別委員会」を設置し、被災地各県・市の精神保健分野の被災状況や外部からの支援活動状況、また一般の方に対してトラウマケアに関する情報を発信するとともに、学会理事や会員それぞれが属する職場や機関など様々なチャンネルから支援に入りました。

しかし、震災から半年が経過したころから、多くの支援チームが被災地から撤退していきました。仮設住宅で暮らす被災者の孤立化などの課題が浮上するなか、専門家による心のケアは、できるかぎり中・長期的に実施する必要があります。そこで、同会は、各種機関や団体が撤退した後にも被災者をサポートしつづけるため、2011年9月からCivic ForceのNPOパートナー協働事業として、活動を継続しています。

日本トラウマティック・ストレス学会の活動の特徴は、ケアを受ける被災者個々人だけでなく、ケアの業務に携わる行政職員らをサポートする点にあります。

被災地で「心のケア」に携わる団体の多くは、仮設住宅を訪問して一人一人に話を聞くなど、その支援対象は一般の被災者個人に向けられています。それに対して同学会の事業では、被災した岩手、宮城、福島の3県の保健所や精神保健福祉センターなど行政機関に向けて、トラウマケアに関する研修やコンサルテーションを行っています。そうした活動を通じて、行政職員がトラウマケアの知見を深め、より専門的な知識を持って被災者の方々の支援にあたっています。

同学会東日本大震災特別委員会の加藤寛委員長は、「岩手、宮城、福島県の精神保健福祉分野が受けたダメージは大きい。阪神・淡路大震災に比べて被害が広範囲にわたる上、地域によって被災状況が異なるなど多様な課題に対応しなければならない」と言います。例えば、岩手県では、震災以前から精神科病院や地域保健の担い手である保健師の数が少なく、精神保健関連のネットワークも脆弱でした。それに対して宮城県は震災以前から病院の数も多く、ネットワークもしっかりしていましたが、交通アクセスの悪い沿岸部は、震災後、特に支援者が入りにくく孤立した状態に置かれました。他方、福島県は首都圏から近く支援者が比較的入りやすい地理的優位性を持っていましたが、原発の問題により外部から入る支援者の数が少なかったり、家族の離別の問題などが浮き彫りになりました。

こうした中、同学会は、各被災地の行政職員がまとめた支援ニーズに対応する形で、活動を続けてきました。具体的には、例えば、12月に福島県の保健所で実施した「自殺予防研修会」では、職員や市町村職員、地域包括支援センターなど約100人に対して、うつ病やPTSDといった大震災後に起こりうる心の変化と自殺との関連性、その防止方法などについて解説しました。また、宮城県看護協会では、看護部長約50人に対し、「看護管理者としてメンタルヘルスを学ぶ」をテーマに研修を実施。看護職が業務中に感じるストレスとその対策方法などについて過去の調査結果などを交えて説明しました。

講習会や研修会、コンサルテーションの実施は、9月から12月末までに東北三県で14回にのぼります。このほか、同学会では、遠隔地からでも現場のニーズに即応できるようweb会議による遠隔コンサルテーションの構築に取り組むなど、個々の課題に一つ一つ応えるよう努めています。

「最近は仮設住宅に入った方々の孤立やアルコールの問題が出てきており、その対応に取り組んでいるところです」と話すのは、宮城県気仙沼保健所の狩野クラ子さん。時間の経過とともに被災者が抱える問題も変化しています。その変化を敏感に感じとり、支援にあたる現場の行政職員、そして、彼らを支援する日本トラウマティックストレス学会が、さらに相互連携を強め、ニーズに合致した支援を展開できるよう、Civic Forceは今後も同学会へのサポートを続けていきます。

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(宮城県看護協会で開催した講習の様子)

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(福島会津大学でも開催。参加者から積極的に質問が寄せられました)