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被災地を支援する

2017/04/13

【熊本地震】性的マイノリティ配慮の視点、 被災地でも--NPOパートナー協働事業

 

日本人の7.6人に1人がLGBT

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951万人——同性愛者や性同一性障害などの性的マイノリティ「LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)」を示すこの数字。実は日本の人口全体の約7.6%にあたり、「市場規模5.94兆円」との試算も発表されています。(「LGBT調査2015」電通ダイバーシティ・ラボ)。

LGBTを平等に扱う社会を実現しようと、欧米では企業の働きやすさを評価する取り組みなどが始まり、日本でも自らの性について“カミングアウト”する人が増えているようです。しかし、まだまだ認知度は低く、“マイノリティ”であることに深く悩み、生きづらさを感じている人はたくさんいます。

こうしたなか、Civic Forceは熊本地震の被災地でテントやユニットハウスを設置して避難所運営を行ったのを機に、初めてLGBTの視点に配慮した緊急支援のあり方を模索し始めました。

 

避難所運営で見つけた新しい視点

unithouse2.jpgきっかけは、2016年夏。LGBTが一つの個性として当たり前に存在する社会の実現を目指す「LGBT-JAPAN」代表の田附亮さんらに、ユニットハウスの周辺環境や仮設住宅を視察してもらったときのことです。

「男性のトイレにも汚物入れを用意したほうがいい」「衣料品や生理用品の配り方を変えてはどうか」。田附さんに、性的マイノリティの人々へ配慮すべき点を聞くと、それまで現場のスタッフだけでは気づかなかったさまざまな改善点が浮かび上がってきました。

他方、田附さんはこの訪問を機に「発災直後の避難所はどんな状態だったのだろう」と疑問がわいたと言います。

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「東日本大震災でも今回の熊本でも人知れず苦しんでいた人はたくさんいたと思います。例えば身体的には女性で性自認が男性の“FTM(Female to Male)”は、体育館など集団生活を余儀なくされる避難所で、周囲の目が気になってトイレにも行けなかったと聞いたことがあります。災害時に優先すべきは当然人命ですが、Civic Forceのように災害支援専門の団体と協力すれば、窮地に立たされる人を減らせるかもしれません」

また、これまで東京を中心に活動してきた田附さんは、東京と地方との間にLGBTに関する情報や理解度に大きな差があることを改めて実感したそうです。

 

双方の“架け橋”になる

田附さん(写真左)らによって設立されたLGBT-JAPANは、LGBT当事者のメンバーを中心に、東京や大阪、鹿児島などで活動しています。活動内容は多岐にわたり、性転換手術が可能な医療機関やGID(性同一性障害)も加入できる医療保険などの紹介、当事者やその家族からの相談受付、音楽やスポーツを通じた交流イベントの開催、飲食やアパレル分野のビジネスのほか、企業からの委託調査も実施しています。

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「一番の特徴は、僕たち自身が楽しんでいること。社会に対して“つらい”“わかってほしい”と訴えるばかりでなく、LGBT当事者がもっと自信を持って生きていけるようたくさんの人を巻き込みながら、LGBT当事者とそうでない人たちの架け橋になりたいのです」(田附さん)。

こうしたコンセプトの背景には、田附さんやメンバーそれぞれの経験や思いがあります。

田附さんがGIDと気づいたのは、20歳を迎えるころ。今でこそ底抜けに明るく、各地の講演会に呼ばれるなど周囲からの信頼も厚い田附さんですが、かつて自殺を考えるほど思い悩んだ時期があったと言います。

「今のようにLGBTという言葉や情報はありませんでした。恋愛もうまくいかず、海外で死のうと思い立ちましたが、旅費稼ぎのために始めた居酒屋のアルバイトで良い仲間と出会い、店の経営という新たな目標もできて前を向けるようになりました」。そして今、自らが動くことで、LGBTが社会のなかで個性の一つとして認知されるよう勢力的に活動しています。

 

声なき声に耳を傾けるデリバリーサービス

そんなLGBT-JAPANとともに、今月から熊本でスタートしたCivic ForceのNPOパートナー協働事業では、LGBT当事者が発災後に感じた困りごとを調査するとともに、今も悩みを抱えている人々を見つけサポートする活動を展開します。

「まずは、地震の被害にあったLGBT当事者に話を聞くことから始めます」。こう話すのは、熊本在住のLGBT-JAPANスタッフ、松本直さん(写真右)。当事者が抱える問題の把握は簡単ではありませんが、パティシエの資格を持つ松本さんや、飲食店を経営する田附さんら多彩なメンバーの力を結集して、移動式のデリバリーカフェ・バーやスイーツ教室などを展開し、人々が相談しやすい場を提供していきます。

そして、プロジェクトを通じて得た情報から災害時のニーズや対応策を分析し、次の災害でも広く活用できるよう公表する計画です。また、GID学会の医師や行政機関などとも連携しながら、地方におけるLGBTの認知向上を目指します。

 

LGBT-JAPAN熊本駐在スタッフ松本さんのブログはこちらから→http://lgbt-jp.com/category/kumamoto