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活動報告

被災地を支援する

東日本大震災支援事業

2012/12/13

"新しい生き方"を提示する、被災地発の実験場――NPOパートナー協働事業

東日本大震災発生後、変わる被災地のニーズにより広く対応するため、2011年4月から続けてきたCivic ForceのNPOパートナー協働事業。第4期では、中長期的な視点で地域の復興に貢献する被災地発の取り組みをサポートしています。今回は、宮城県気仙沼市唐桑(からくわ)町で、地域の素材を生かした商品を開発し、これまでにない新しいビジネスモデルの確立を目指すピースネイチャーラボの活動について紹介します。

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カツオやマグロが回遊する三陸海岸の中ほど、複雑な海岸線に富む宮城県気仙沼市・唐桑半島。半島の随所にある入り組んだ湾は定置網や養殖の適地で、ここに暮らす人々は長年、漁場をなりわいとし、海を愛し、海とともに生きてきました。他方、1970年代に200海里漁業水域※が設定されると、漁場の制約や漁獲割当量が減少。遠洋漁業は衰退し、近海での漁業や養殖による海産物の出荷に頼るだけの産業では活路を見出せず、若者は安定した雇用を求めて都市部へ流出するようになりました。

唐桑地区にとって、2011年3月11日の東日本大震災は、まさに漁業の担い手が減り地域衰退が進むなかで起こり、船舶や養殖施設の破壊をはじめとする津波の猛威は、人口減少にさらなる拍車をかけました。震災からの復興を見据え、地域の主要産業である水産業の再生のために、早期の工場再開など基礎インフラの再整備は喫緊の課題です。他方、ちくわ、かまぼこなどの練り製品に代表される加工製品の生産量は震災前から衰退傾向にあり、産業再生においては新たな打ち手の必要性も指摘されています。

「技術先行の大規模な“産業的漁業”として復興するのではなく、世界的にも豊かなこの三陸地域の森と海をつなげるそれぞれの流域が持続的・自発的に発展していくための新しいアイデアと、そのアイデアを具現化していくチームが必要」――2012年3月、そんな志を持って立ち上がったのが、「ピースネイチャーラボ(PNL)」です。PNLは、発災直後から東北の復興支援の現場に身を置いてきた松田憲さんと、唐桑で環境教育などの活動を続けてきた畠山信さんによって設立され、唐桑町舞根地区発の新たな復興モデル創出を目指して奮闘中です。

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具体的には、牡蠣やホタテなど今まで一次産品のまま出荷していた地域の食材を加工・生産して販売することで地域振興や雇用の拡大へとつなげ、水産業の衰退や産業従事者の地元離れなどの課題解決を図ります。また、“森里海のつながりを尊重し、“流域”の魅力をお届けする”をコンセプトに、自然の恵みである産品をできるだけ人の手で加工し、同時に野放しになっていた里山の間伐を進め豊かな森をつくっていくビジネスモデルの確立を目指しています。

設立のきっかけについて、松田さんは「被災した地元の人々と地域の復興について議論を重ねるなかで、被災地にある目先の課題を対処するだけではダメだと危機感を感じるようになった。10年後に地域を牽引するリーダーの実学の場として、地域発展に向けた具体的な仮説を立て、実験・検証する場を作りたかった」と言います。他方、畠山さんは「既存の水産業と観光業を軸としながらもこれまでにない新しい産業づくりが必要。この地域では、60歳になってやっと意見が言えるようなところがあるが、今、始めなければ長期的な視点で地域は復興しない。何よりたくさんの人がかかわるこの事業を通じて私自身が学び、地域のためにちゃんと役立てる人間になりたい」と語ります。「自由な発想で、新しい生き方を発信していくようなことをやりたい」という二人の意見が“ラボ”の立ち上げへとつながり、現在は5人のメンバーが活動をともにしています。

PNLは、思いを具現化するため、“漁師体験”などのツアー企画や、レストランの立ち上げ、物販の事業展開などを目指していますが、これらのうち、Civic  ForceのNPOパートナー協働事業では、2012年9月から、特に地元素材を使った商品の開発と試作に重点を置き、商品化するメニューの確定、仕入れルート・製造ラインの確立、作業マニュアル作りなど、生産体制の整備までをサポートしています。

次回は、商品開発や流通、建築など多方面のプロのアドバイスを受けながら、奮闘するPNLの商品開発のストーリーをお届けします。

※200海里漁業水域:沿岸国が漁業資源の管轄を主張する沿岸から200海里(約370km)の水域。日本は1977年に200海里漁業専管水域を設定。

 

【動画:ピースネイチャーラボ代表理事・松田憲さんインタビュー】

(PNL設立のきっかけや活動の現状、今後の展開などについてお聞きしています)